Cinema Life Career

映画紹介を中心に、仕事観やキャリアについてなど、世界観や見えていること、日常の中で感じていることを徒然なるままに綴っていきます。

【映画】彼女がその名を知らない鳥たち 〜この究極の愛に名前をつけたい〜

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なかなかのどんでん返しをくらった。

異常は日常の中にひっそりと潜んでおり、愛は度を超えると狂気に繋がるとでも言いたいのであろうか。
愛とはここまで強く人を動かすとでも言いたいのであろうか。
それでも最終的に腹落ちした方向性としては、自分のことを大切にしてくれる人とちゃんと向き合おうとすること、そんな人はいなくなろうとするそのまさにそのときに大切さに気づくものである、ということ。

十和子(蒼井優)は、不潔で汚らしいと思っていた男陣治(阿部サダヲ)と二人で暮らしていた。
陣治は十和子にとって、お金をくれること以外は、ただの関わりたくない男。
心の底から軽蔑をしているような態度を度々とる。
様々なシーンからわかる、十和子にとって陣治は何でも話せて自分をさらけ出せる唯一の存在であること、嫌悪感は抱きつつも離れられない相手であること。

そんな十和子には、忘れられないクズな元恋人黒崎(竹野内豊)がいた。
陣治と暮らしていてもどうしても忘れることができず、夢や空想で出てきたりする。
それでも決して会うことはない。

色んなもやもやを抱えていた十和子は、それを発散するかのように、クレームを様々な場で起こしたり、陣治に当たったり・・・
確かに不思議な雰囲気や可愛さ、綺麗さ(蒼井優なので)はあったが、それ以上に性格や考え方など、人としての部分でどうしても受け入れづらさがあった。

クレームを起こす先で出会ったどこか黒崎に似た男水島(松坂桃李)に惚れてしまい、そのままよろしくない関係に落ちていく。

黒崎と水島に共有していたのは、十和子を都合のいい女としか見ていない点と容姿端麗で女性を口説くのが上手であること、いわゆるダメな男であることだった。
それでも、そういう男となぜか出会って惹かれてしまう十和子。
そこに、自分には振り向いてはくれていないが、人一倍彼女のことを心配し、本当に彼女に尽くしているのが陣治だった。

あんな状況下で十和子を好きなままでいられること、十和子のために自己犠牲をも厭わないこと、全然共感することができない。
陣治はストーカーであるかと思うほど、十和子について回る。
十和子はそんな陣治をさらに突き放していこうとする。
それでも離れない陣治。切ることができない関係。
この二人の関係を表すようなそれぞれのシーンやそれぞれの演技には目を見張るものがあった。

様々な不快感だけが募っていき、誰にも共感できないまま話が進んでいく。
ここからどんな展開が待っているんだと思っていたが、最後の展開が本当にすごかった。

陣治があれだけ十和子につきまとっていた理由、自分にしか彼女を幸せにできないと放った理由、犯人であると疑われようとしていた理由などがわかり、すべての陣治の行動の不快さや気持ち悪さ、嫌悪感がスッと消えて、感動に変わる。
全部十和子を愛していたがゆえの行動だったのである。
それも完全なる自己犠牲の上に成り立っていた愛ゆえの行動。

理由や背景がわからなかったら、愛ゆえの行動に度が過ぎることでそれは異常に見えるし、嫌悪感に繋がる。
しっかりと本質まで理解しようとすること、行動に向き合っていくことは大切なことなんだなとラストで気づいた。

ただし、これは本当に愛と呼べるのであろうか。もはやそれを超えた何かではないかと。
一方通行の愛ほど、虚しいものはなく、愛ゆえにその人に尽くしすぎて自分のことを全く考えられなくなることは怖いし、逆に自分の人生をなくしてしまうことになる。

おそらく陣治ほど、自分のことを全く考えずに、愛する人に尽くしきれる人なんていないであろう。
いたらそれは危険だ。やはり愛というのは、与えることと与えられることのバランスが非常に重要である。

この作品で陣治は、「愛を超えた先の何か」を行動で体現するような偶像として、描かれているわけであるが、沼田まほかるは愛にどこまでの可能性を見出そうとしているのか。
ユリゴコロも含め、この人が描く愛は、異常であることに違いない。
それこそ「愛を超えた先の何か」と表現せざるを得ない。

一方通行の愛は狂気に変わる、一方通行の愛は正常な判断ができなくなる。
そして一方通行の愛を受けた者は、その愛が異常なものに変わったときに初めて、自分がしてしまったこと、相手としっかりと向き合っていなかったことに後悔し、戻れない過去に戻れたらという心情になる。
なので結局は、自分のことを大切にしてくれる人とちゃんと向き合おうとすること、そんな人はいなくなろうとするそのまさにそのときに大切さに気づくものである、という結論に至る。

話の展開の仕方も本当によくて、最後に陣治の過去を見せることで、現在とっている彼の行動が全部腑に落ちてきて、「なるほど!」と全てがこれを見せるためだったんだと、感心する持っていき方。

沼田まほかるがすごいのか、白石監督がすごいのか。
いや、どっちもすごいんだろうなーこれは。

そして、何と言ってもキャストの演技がたまらない。
特に蒼井優阿部サダヲ
この映画こそ、この二人でないとここまで入り込めるわけがないと言えるほどの演技。
蒼井優は本当にこういう役が合うから好き。
松坂桃李も役の幅が広がってきててよい。

共感度0%、不快度100%、最低な女と男が辿り着く「究極の愛」。
この「究極の愛」に名前をつけたい。
物語が進めば進むほど、この映画に翻弄されること間違いなしです。

彼女がその名を知らない鳥たち=究極の愛」
最後に爆発したかのように飛び散る。