Cinema Life Career

映画紹介を中心に、仕事観やキャリアについてなど、世界観や見えていること、日常の中で感じていることを徒然なるままに綴っていきます。

【映画】旅のおわり世界のはじまり 〜旅が見出した確かなる生命〜

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旅のおわり世界のはじまり

私の心は迷子になった。
遠い空の下、"新しい自分"に出会う。

待望の黒沢清監督の最新作は、前田敦子主演で、今までとは少し毛色の違う作品。
一人の女性の無気力の生が一つの旅を通して、確かなる生への新しい第一歩を踏み出していくような作品である。

前者のキャッチコピーが前半、後者のキャッチコピーが後半と繋がってるような感じ。

 

旅が好きな人にとっては、何で旅が好きなんだろうか、を考えられるきっかけになると思います。
旅好きな自分は考えられました。
自らが東南アジアを周ったときに感じた無駄なものをその場所に持って行かずに、身一つで感情的に楽しみ、その状態で異世界に触れることで自分に新たなエッセンスが加わるような気持ちのよい言葉にしにくい感覚。
それが価値観や考え方だけでなく、色んな五感に影響を与えて、そのときだけでなく、その後の人生にも影響を及ぼし得る体験ができることこそが、旅が好きな理由なんだと。

明らかに前半と後半における旅の概念が異なっていて、そこにこの映画の意味と深みがある。
それはまるでアイドルであった前田敦子が自らの意思に正直になる解散後の女優活動に至るまでのように。
人生と旅を上手に掛けている作品で、今作を観ることにより旅だけじゃなく、人生や生き方についても考えさせられるものとなっている。
旅と人生は何だか似ている。いや、似せるようにしていくことが豊かな人生へと繋がってるような感じがする。

 

舞台はウズベキスタンとあまり日本には馴染みのない国。
テレビ番組の取材のためにクルーとともにウズベキスタンを訪れた葉子(前田敦子)は、初めは仕事としてその場を何とかやり過ごすことが第一となっていて、旅としてその場を楽しむことができていなかった。

仕事としてはただ言われたことに従うだけ、仕事以外の時間は何とか生きるためだけに最低限の食事を調達し、あとはホテルにこもっていつでもできる彼への連絡が中心の生活。

 

自分のやりたいことと違う方向に向かっていることへの違和感、あくまで視聴者の興味を惹くために作られたドキュメンタリーであることに対しての(これは本当にドキュメンタリーと言えるのかという)不信感。
何とかこなしてやり過ごしていた先に、色んな邪念が募っていく。
生きていて何やってるんだろうというあのやるせない感じが、リアルにうまく描写されていた。

レポートしているうちに、視聴者のために本当の自分とは違う自分を切り売りしているような感覚に苛まれ始める葉子が、あるシーンを皮切りに少しずつ変わっていき、それにより新たな自分に出会えて、最高な形で旅がおわり、新たな(葉子の)世界がはじまる。

まさに旅のおわり世界のはじまり。
全てがあのエンディングに繋がっていたのか、と思うと感慨深いし、そのためにあの前半を描く意味が物凄くある。

本当の意味で葉子が旅をできていたのは、後半のみ(あるシーンの後から)なのである。
豊かな人生への歩みを進めた。

旅をする上では、やらないといけないこととかそういうマイナスで、それにより抑えめになるような事象は一旦忘れて、今その瞬間の心と感情に正直になって、その場を全力で感じて行動に移していくことが大事なんだと、さらにそれが結局豊かな人生を歩んでいくためにも大事なんだというメッセージ性を徐々に帯びさせる。

 

目の前のことに夢中になり、好奇心に駆り立たされながら、能動的にその場を感じ取りに行く。
その裏にはもちろんやったことないことや馴染みのないことをすることに対しての不安があるだろうが、いかにそこに打ち勝てるか。
それによりやっと新しい世界のスタート地点に立つことができる。
そして自分の意思でやったことにより、それが正しいとわかったときに、それが自信になり、人生の豊かさに跳ね返ってくる。
よい循環が生まれてくる。

せっかくの旅は色んなものに触れないともったいない。
触れることで、新しい考え方や世界を知ることができ、それがまんま自分の人生に返ってくる。
そこに影響されすぎることは必ずしもよいことではないかもしれないが、新しいものに触れることで、自分の人生を充実するための選択肢は増えるはず。

そしてそれは何も旅のみならず、普段の生活の中でも言えること。
何かを新しく知り、その反応が自分を更新し続けていくことに繋がり、それこそキャッチコピーの新しい自分に出会うことができる。

偶然だとしても、前向きに捉えて触れていくことでしかわからないこと、掴めないものがある。

人生から旅を、旅から人生を考えさせられるシンプルに見えてなかなかに深い映画でした。

P.S.
これはAKB48前田敦子から女優の前田敦子へ、交際の許されない前田敦子から結婚をして子供を授かった前田敦子へ、悩みもがきながらも出した決断とそれにより作られた新たな人生を旅に例えているような作品に思えた。
前田敦子だからこそより感じられるリアリティ。

彼女を取り巻く加瀬亮の安定の包容力と染谷将太柄本時生の色が違うスタッフ像。
全てが様になってハマってる素晴らしいキャスティングでした。

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